INTERVIEW教えて!園長

vol.2 今井保育園 「橋本貴志先生」

「教えて!園長」とは、私たちが素敵だと思う園長先生にインタビューをさせていただき、園の取組みを紹介する企画です。

本日は、社会福祉法人光道会 今井保育園の橋本貴志先生先生にお話を伺いました。
(インタビュアー:宮野)

橋本先生、本日はよろしくお願いいたします。

-よろしくお願いいたします。

今井保育園の理念に「子育ちを守る」とありますが、まずはどのような保育を実践されているのか教えてください。

子どもは自ら育つ力を持っていると考えています。
「大人はその育つ力を信じ、援助することしかできない」という考えを出発点として、子ども自身が育とうとする力を守る「見守る保育」を目指す、というものです。

子どもが子ども自身の力で自らを育てているという能動的な動詞として捉えたいと考え、それを守り見守る、と思いからこの「子育ちを守る」という言葉を用いています。

今井保育園では発達段階を考慮して、大きくは0・1才、2才、3〜5才の3つのゾーンに分けて保育環境を作っています。3才未満の期間は「自己肯定感」、3才以上では「自己実現感」が育つ保育を目指しています。
自己肯定感は「私は生きていていいのだ」という感覚で、保護してくれている大人からの無条件の愛情が作り出すと言われています。

そして自己実現感は「私は何かを実現できるのだ。たとえ何度失敗したとしても。」という感覚で、自ら考え、選択し、決断することを繰り返し行なうことで備わっていくと考えられるものです。
そういった感覚を得ることができるようにするためには、生まれたときから無条件の信頼を与えなければなりません。それを「無償の愛」と表現しています。大人から無条件に無償の愛が与えられ、失敗しようが、大人が困ることをやろうが、「私たち大人はあなたのことを愛しているよ」という姿勢・態度でいること。それによって得られる体験が子どもの認知を正常化していくと考えています。

当初は「見守る」ということで、職員からは「なにもやっちゃいけないの?」「どのタイミングで手を出していいのかわからない」という声もありました。何度も職員と議論を重ねていくと、「つい手を出してしまう」「いつどのタイミングがよいのだろう」「今はまだ我慢して見守るべきか」と悩んでいることがわかりました。

私たち保育者には、これでいいのか、間違っているのではないかという「悩み」「葛藤」「苦しみ」がなければいけないと考えています。これらの悩みを大人が引き受けなければ、それをそのまま子どもに引き受けさせることになります。

大人は子どもが大人の望む行動をしてくれれば「安心」できます。大人が不安にならないよう、子どもに勝手な願望を押し付けている、と言えます。このような子どもが嫌な気持ちになることを許容する、という状況はそのままにして良いわけがありません。

大人はとかく子ども達に成功体験を積ませたいと思いますが、これには「不安になりたくない」「失敗して余計な手間をかけたくない」「なるべく短時間で済ませたい」という大人側の気分が無関係ではないでしょう。

子どもたちは自分でトライするものを見つけて、成功したり、失敗したりする。その経験によって、勝手に子どもが自分自身の向き不向きもわかってくる。ポジティブな感情とネガティブな感情は両方あってバランスしていくものですから、成功と失敗の両方が体験できなければ、いびつな状態になってしまいます。

それらの体験から自分を理解するヒントも得られるでしょうし、得手不得手を互いに補い合い、他者と協力し合ってチームを作っていけばよい、だれか1人だけがリーダーではなく、場面場面でリーダーが代わってもよい、という支え合って共に生きていく、協力していくという認識が生まれると考えています。

実はこの協力するという能力が我々人間に備わっている最大の能力なのではないかと考えています。様々な多様性があって、能力差があって、それを互いに補うチームを作れる。このチームが集落の元になり、大きくは国という単位なっていった。つまり、この能力のおかげで人間は文明を築けたと言えるのではないかと考えています。

先祖から受け継ぎ、子どものころからすでに備わっている能力ですから、それを失わないようにしていかなければならない。そのためには大人は葛藤を受け止め、これでいいのかなと思いながら、「子育ち」を見守っていく必要がある、と考えています。

このような理念や方針を実践するために、職員とのコミュニケ-ションでどんなことを工夫していますか?

意図的な関係改善策を実施して、短期的な改善をしても意味はないと思っており、職員の声に耳を傾けながら、風土、文化として定着させていく必要があると考えています。
根本的には「不公平感」「不遇感」「徒労感」を低減し、目的を共有していく方法のみと考えており、大きく分けると下記の4つに取り組んでいます。

①休暇の増加
②リーダーが目標と目的を繰り返し伝えていくこと
③各人が学ぶことを支援すること
④情報を共有すること(情報共有のコストを極限まで下げる)

それぞれについて詳しく教えてください。

①休暇の増加は、「人間というものは疲れると碌な事を考えない」という実感から考えました。疲れきってしまう前に気楽に休める環境があれば、体調不良時にも回復しやすくなりますし、安心感から疲れにくくなります。
休暇を増やすには就業時間の削減が必要です。この検討をスタートするにあたり、よくありがちな「業務改善をしてその結果労働時間を減らす」という方法は不可能である、と考えるところから始めました。
昔から「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する(パーキンソンの法則)」と言われています。そこでまず最初に労働基準法で定められた年間の総労働時間上限である1984時間まで就業時間を減らし、その後、この時間で残す仕事を選定するという順番で検討しました。

残す仕事は子ども達の発達に役立つものであり、かつ保育士が必要であると考えるものでなくてはなりません。そのため、どのような保育を行いたいのかを職員に問いかけようと、行事について無記名のアンケートを実施しました。なくしたい行事と続けたい行事をそれぞれ3つ選んでもらい、その理由を自由記入欄に回答してもらうものです。回答順位に従って−3(もっとも辞めたい行事)〜+3(もっとも続けたい行事)までの1ポイント刻みで点数をつけて行事ごとに集計し、「今井保育園の行事の重要度評価」の見える化を行なったということになります。

結果として、実施していたほとんどの行事・教室に対して職員は必要がないと考えていたこと、それらの時間を利用して必要とすること、特に日常の保育に力を入れたいと考えていることがわかりました。
この結果を皆に示しながら、ではこれらの行事をやめ、これからの保育はどうあるべきかを学ぶ時間にあてよう、と宣言したことで、保育の質を高めつつ就業時間を短縮する筋道が立ちました。職員一人ひとりにも自分の感覚が間違っていなかった、と納得感があったのでしょう。

現段階では年間で96時間の時短につながり、12日分の休みが増えました。さらに業務中に行う研修の時間を1人あたり年間平均2時間未満から16時間超にすることも可能になっています。
ここで重要なことは行事を減らすこと自体を目的にしなかったことです。今までやっていたことをやめたり、変えたりすることはときに不安を伴います。まず行事を見直して空いた時間で何をするか(今井保育園の場合は、まず休む、その他は研修・研究に充てる)を明確にしておかないと、別の作業で埋まってしまう恐れがあるのです。

また有給休暇の取得のしやすさも考えておかなくてはなりません。元々当園には、子育て中の職員が子どもの発熱で帰宅しなくてはならない時などに「早く行ってあげて」と声を掛けあい、帰りやすくする文化がありました。

他者の目を気にしなくて済むなら、休みたい時・必要な時に休暇が取得したいと考えるのは当然なことです。園長からは「有給休暇は100%消化が当たり前」「ちゃんと休まないと、ちゃんとした仕事はできない」と繰り返し伝えることで、休暇の取得ハードルを下げていく後押しをしています。

また「年次有給休暇は余暇・好きなことを行なうためのもの」という認識なので、病気や怪我、家族の看護・介護などは有給休暇ではあるものの、休暇日数としてはカウントしない、としています。病気はなりたくてなるものではありませんので、それを理由にした年次有休の費消は本来の目的に反していると考えました。

これ以外にも医師の指示による半年未満の休業には法人が100%の給与保証をする制度があります。この制度を利用した職員は「職場とのつながりがしっかりあると感じられて安心できた」と言っています。従来の社会保険で対応する制度とはこの安心感という点が大きく違うのではないかと思います。

しっかり休める、病気になっても職場が見捨てることはない、という安心感は、かえって病気になりにくく、活力がある状態を作るようです。
 
②リーダーが目標と目的を繰り返し伝えていくことは、組織として何を目指しているか、我々の存在理由は何かを明確にすることで、職員個人の仕事がその中でどのように役に立っているかをイメージするために必要です。
日頃、子ども一人ひとりの発達をよく観察して、エンパワーメントすることが保育者の仕事、そしてその保育者をエンパワーメントするのが園長の仕事、と言っています。指示を出す人ではなく、応援する人、ふと不安になるときに支え、進む道を示唆する人という立ち位置です。

組織の目的や目標を揃えていくことは、保育者の子どもたちへの視点が揃うということ。そうすると、ほうきや雑巾の置き方みたいな枝葉末節にこだわって目的を見失うことはなくなっていきますし、業務中のコミュニケーションは円滑になります。

③各人が学ぶことを支援することも、組織の目的・目標を揃えたり、コミュニケーションの円滑化を図るために助けになります。個人の体験に基づいた保育では、個人の成功・失敗体験という不可逆かつ一意的なものになってしまい、他の選択肢をとった場合や様々な研究の結果などは考慮の外になってしまいます。

学習・研究をすることで、客観的なパラメータを念頭に置きながら目の前の子どもについて検討できるようになります。

支援内容は外部研修への派遣(参加費用、旅費交通費は全額職場で負担)や、内部研修の開催(階層別研修、講師を招いての全体研修、園長による中期計画説明など)というものですが、参考図書として保育関係だけにこだわらず話題となった書籍を全職員に配るということもしています。

④情報を共有することは不安と憶測が大きくなるのを防ぎ、目的・目標をはっきりさせることにも役立ちます。普段から目的が明確なら、情報共有会議は必要なく、LINEやメールなどで代替できます。

この情報流通コストが限りなくゼロに近い状態は、共有する情報を増大させるので、情報バリューはかえって高いものになります。また不安・憶測を排除することは、人間関係をなめらかにする一助にもなります。

このおかげか、職員会議や保育会議は12:30~13:30の間、または16:45〜17:15の間で終わらせられます。

これらの工夫を取り入れる前と後で、どのような変化がありましたか?

中期的には離職数が明らかに少なくなりました。また新しい概念を取り入れるまでに要する時間は大幅に短縮されています。

残業がゼロになったわけではありませんが、現在は全員の残業時間を合わせて、年間50~90時間程度です。もちろん以前はこんなものではなかったため、期初には残業代としてそれなりの予算を計上していますが、削減された分は期末に一時金として支給してしまいます。残業してもしなくても、支給される金額が一緒なら残業なんてしませんよね。

職員の変化で大きかったのは、他責から自責の意識転換です。「誰もやらない」から「だったら自分が」と考えるようになりました。考え方の共有にしても以前は受動的・拒否的だったものから、きちんと伝えて会話していこう、理解し合えないことが前提なのだから長い目で理解し合えるようになろう、という姿勢になってくれています。
 

働く環境づくりで大切にしていることがあれば教えてください。

私は働いてくれている人たちを「ヒューマンリソース」ではなく、それぞれのミッションを解決するためにここにいる人間だと捉える「ピープルオペレーションズ」という考え方で見ています。うちに来てくれた人は何かを解決するために縁があってやってきた「まれびと」です。だからこそ採用には時間をかけて法人・園の方針をしっかりと伝え、その方の考え方・望むことが本人の方向性と合っているか手間を惜しまず確認します。

一人ひとりの個性が活かせるよう、得手不得手を補い合う、また苦手なことをテクノロジーに対応させるなどして個人の努力だけによらない解決方法も考えています。

例えば、保育士の苦手とする仕事の一つに「書類仕事」があります。特に保育計画は最も苦手とするところだと思います。これを軽くするため、1人に1台ずつノートPCを貸与し、ICT保育支援システムを導入しています。年齢・月齢や発達記録によって保育計画は概ね機械的に立てることができますし、なにより子ども達と向き合い観察するという保育記録に割く時間が充実できます。

保育士は子どもと過ごすことが好きで、子どもの成長を敏感に察知することを得意としている人が多く、その観察の記録をつけることにはそれほど困難を感じないようです。

保育記録を充実させることは、子どもに何が起こったかを記録し、よりその子にフィットした計画が選択されるために重要な要素です。これは今のICTやセンシング技術では充足できていない、人間が観察しなければできない仕事ですので、そこに注力するために他の苦手となりやすいことを回避する手段を持つことでクオリティが上がっていきます。

先にも挙げましたが、園全体にWi-Fiを導入し、ノートPCだけでなく、メールやLINEを利用しやすくしています。これは情報流通を促進する狙いがあってのことです。

その他にも、職員全体への購買権限の付与や、主任・副主任の下にディレクター職(3才未満児、3才以上児に分割し、それぞれの保育内容を決定できる)を創設して現場に裁量を持たせること、現場での判断が難しい場合は即座に上席にエスカレーションする文化の構築と、そのための責任分界点の明確化を実践しています。

これらも結局は時短などの心に余裕を持つこと、人間関係を円滑にしていくことに繋がってきます。余った時間を保育の研究や教育・研修にも利用することもできるようになりました。
そうするとやり甲斐がでてきて、自分の仕事がおもしろくなる。おもしろければその仕事に夢中になれるし、長く続けようと思えます。

不遇感や拘束時間の長さを解消できれば、みんな子どもが好きで保育が好きな人たちですから、個人と組織の目的が揃って良い職場となるはずです。

「時短なくして保育の質の向上なし」というスローガンを掲げて、就任から6年間取り組んできました。時短に象徴される職場環境の改善と、保育の質の向上はどちらか一方のみでは構成できない要件と当初より認識しています。保育の質を上げるのはそこに関わる保育者です。

彼らの状況が良くならなくては、いい仕事ができるわけがありません。この事は取り組みが長期に渡るほどに、効果を実感しています。

職員一人ひとりの自発的な考え方、善意、良心に則した活動になればなるほど徹底されていきます。園長が強制的に、「こうしなければダメだ!」、とやったところで、この結果は手に入らなかったのではないかと思います。

時には園長が強いリーダーシップを発揮し、きちんとメッセージを発信する中で、厳しいことを言わなければいけない時もありますが、そういった場合も園長は「背中を見せる」、つまり自ら実践して取り組む姿を見せることは大変大切です。

こと保育については保育士のほうが上手に行えるでしょうが、例えみっともなく下手くそであっても必死な姿を園長がさらすことで、伝わることがあります。

保育とは子どもと保育者の間の信頼関係、信頼の交換に基づくものであると考えています。信頼は相手から受け取ることから始まるのではなく、まず自分が相手に渡すところから始まります。園長がまず保育者を信頼し、保育者は子どもを信頼していく。そしてその信頼がまた戻ってくると信じていく、ということです。

保育者が子ども達を信頼するように、条件を揃えて機会を与え、職員が自ら望み、やる気になることを信頼して待ち続けることが園長というリーダーの役割です。「子育ち」と同様、「職員の育ち」を見守ってまいります。

貴重なお話を聴かせていただき、ありがとうございました。

お話を聞いていただき、ありがとうございました。

※参考図書:「エデュカーレ」平成29年9月号

園情報
社会福祉法人光道会 今井保育園
東京都青梅市今井2丁目1125番2号
園長:橋本貴志先生
定員数:130名
職員数:35名(保育士20名・看護師1名・栄養士2名・社会福祉士1名・事務2名・その他)

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